DVDプレーヤーを魔改造しディスクを飛ばして25m先の10本のピンを何本倒せるか、というこの競技。
あくまでも「魔改造」、DVDプレーヤーとしての機能を残さなければならないので、「投球前に規定の映像と音声をモニターに30秒以上流すこと」「投げる動作はイジェクトボタンを1回押すのみとする」というルールが設けられました。

 実際にDVDディスクを手で投げてみましたが、方向は定まらないうえにまったく距離も出ません。「ピンに当てるどころか、25mを飛ばすことすらできないんじゃないか、、、」という不安が頭をよぎります。

 みんなでアイディアを出し合う中で、ふと溶接職場の職場長が「むかし円盤の弾を飛ばすピストルのおもちゃあったよね」とつぶやきました。思い立ったら即行動!ということで、まず作ってみたのが下の写真にある懐かしの「割りばし鉄砲」です。給食で出る牛乳瓶の蓋などを使って遊んだ経験がある人もいらっしゃると思います。

 飛ばしてみると、ものすごい勢いで円盤が発射され、”これだ!”となりました。そして確認できたことが、やはり円盤を回転させながら飛ばす必要があるということ。写真のように、輪ゴムを円盤の真ん中ではなく少しずらしたところに引掛けると円盤が回転してよく飛びますが、円盤の真ん中に引掛けるとまったく飛びません。よってフリスビーのように「いかに回転をさせながら飛ばすか」がキーポイントであることがわかりました。

 これをもとに、まずは実際のDVDディスクを飛ばしてみようと製作したのが、試作1号機となる以下の機体。電動ドライバーを使ってディスクに回転を与えてから、ゴムの力で飛ばします。ひとまずトラックの幌を留めるためのゴム紐を使用しました。

 動画の通り、飛ぶには飛びましたが、勢いがまったく足りません。
モーターの動力を使ってディスクを飛ばすことも考えましたが、恐らく他の2社もその方式は考えているだろうから面白くないし、そもそもS陽製作所らしくない!

 我々はこれまでの業務の中で、俗に「からくり」と言われる日本古来の技術とシーケンス制御やセンシングという先端技術を組み合わせて現場改善を進めてきたこともあり、その特色をこの「魔改造」にも生かしたいと考えていました。

 どうやったらモーターなどの動力を使わずに強烈な力でディスクを飛ばせるか、、、

 夜な夜なみんなで集まって「クレー射撃の的みたいに飛ばすのは?」「それだとイマイチ方向性が定まらないんじゃない?」などと思案を繰り返す中で「そういえばアーチェリーってどれくらい飛ぶんだっけ?」という話が出ました。ちょうど東京オリンピックが終わったばかりで、アーチェリー日本代表の活躍する姿が頭に残っていたのかもしれません。早速調べてみると、オリンピック競技の距離はなんと今回の3倍近い70m。再び”これだ!”の瞬間でした。

 ここからのスピードの速さが我々の真骨頂。もともとこの魔改造を始めた時から、メンバー全員で「見た目も性能も”カッコいいもの”をつくろう」という目標を持っており、ボーガンスタイルのデザインはすぐに生み出されました。そして各メンバーがそれぞれの力を存分に発揮して、設計図を描き、鉄板を曲げ、ブロックを削り、溶接で固定し、組み立てをして、試作2号機の製作に要した時間はわずか2時間余り。番組でも触れられていましたが、この速さには取材をしている番組スタッフも驚いていました。

 数メートルの距離から始めて、ディスクの回転や軌道をみながら徐々に距離を伸ばしていきました。
発射台カバーの片側内面にゴムを貼り、そこにディスクを押し当てながら発射することでディスクに回転を与えています。ディスクにマジックで色を塗り、どれくらいの回転がかけられているかを確認しましたが、安定して飛ばすにはまだまだ回転も勢いも足りません。

 回転しながら飛行する円盤には、中心を境にして進行方向に沿う回転と逆らう回転になる部分が生じるため、どうしてもディスクの左右で揚力に差ができて飛んでいる間に傾き、軌道が曲がってしまいます。部品の精度、レールの動き、内面のゴム素材、弓の引き具合、トリガーの構造など、各部に改良を加えて回転数と発射速度のバランスを取りながらテストショットを繰り返すことで、だいぶ軌道が安定してきました。

 軌道がある程度安定してきたところで、本体の角度を測定しながらディスクが命中した箇所を記録して、発射角度と軌道との相関を検証します。

 そろそろ期限が迫ってきて焦りを感じつつも、定量的な検証を繰り返して、いよいよ本番と同じセッティングでのテストショットを開始。

 そしてついにピンを倒す瞬間が!!

 しかし、まだまだこの程度では勝つことはできません。「たまたま当たっただけでは成功体験でも何でもない!」という社長の言葉で気を引き締め直し、更に改良を加えて命中率を上げていきます。

 発射構造に関してはかなり煮詰めることができたので、いよいよDVDプレーヤーと合体させた本番機の製作に入りました。最初に書いた通り、発射の操作はイジェクトボタンを押すことだけしか許されません。なので、イジェクトされたディスク(トレー)を透過型の光電センサで感知して、電動アクチュエーターを使用した発射機構が作動する構造としました。照準には会社にあったレーザー距離計を使用しています。

 構造の詳細は以下のスライドをご覧ください。

HulkBogan

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 そして見た目や性能と同じくらい重要なのがネーミング。迫力のあるボーガンスタイルということで、昭和世代にはお馴染みのプロレスラー、超人ハルクホーガンにあやかって「ハルク・ボーガン」と命名しました。

 当初はDVDプレーヤーらしい外観にするためブラックに塗装するつもりでいましたが、鉄の質感や溶接の焼けが何とも言えず”カッコいい”ので、本体は敢えてクリアの艶消し塗装で仕上げています。左の弓には、魔改造に携わったメンバーの名前の頭文字を並べ、中央には超人ハルクホーガンに敬意を込めたヒゲのエンブレムと、メンバーの一員である溶接職人渾身の作品、溶接ビードだけで描かれたロゴ「S’nyo」(エスンヨー)の溶接アートを取り付けました。

 発射機構を自動化したことで生じる不具合を洗い出し、対策を施していきます。

 その後も、改良~調整~テストショットをひたすら繰り返し、50%程度まで命中率が上がってきました。最高記録は9本。

 最終調整を行って、いざ決戦へ!!